病害虫防除に対する当園の考え方について 

 梨栽培、果樹栽培においての農薬散布は不可欠なものとなっています。一般的にどんな果樹農家も研究指導機関の作成した防除暦の通りの農薬散布をしています。この防除暦通りに散布すれば、病害虫の被害を最小限で済ますことができるというものです。

 

 すぎの梨園では薬剤の残効期間と降雨のタイミング、太陰暦から農薬の散布時期を見極め、天敵の棲みやすい環境づくりや微生物農薬など有機JAS認証でも使用可能な農薬を活用しながら化学農薬を削減してきました。千葉県の散布化学農薬成分数基準の半分以下に抑え、2004年より特別栽培認証「ちばエコ農産物」を取得しています。これまで経費削減や労働時間削減を目的とした「エコノミー」から、世界の流れでもある環境保全「エコロジー」を意識し、IPM(総合的病害虫管理)の考え方を取り入れ、梨づくり以上に環境づくりに取り組んでいます。

 

当園で実践しているIPMの考え方に基づいた病害虫防除

・カブリダニ等園内に棲む天敵を保全するために非選択性殺虫剤(有機リン剤等)の使用は最小限にとどめる

・降雨のタイミング、雨前散布を基本とする

・欧米で使用規制された農薬の使用中止(今後日本でも使用禁止になる可能性があるため)(下記参照)

・BT剤や微生物農薬など有機JAS認証で使用可能な農薬を選択肢にいれる

・窒素分の過剰施肥はしない

・多目的防災網の活用でカメムシや鳥類の侵入を防ぐ

・不耕起栽培、シーズン中の株元の草刈をやめハダニの天敵であるカブリダニ類の居場所をつくる

 

 

 農薬はメーカーが多額の費用と月日をかけ開発され、「農薬取締法」に基づき登録されています。登録されるためには30項目以上の毒性に関する試験をクリアしなければなりません。また「農薬取締法」に基づいた「農薬安全使用基準」の設定と、さらには「食品衛生法」による「残留農薬基準」が設定されます。残留農薬基準は一日摂取許容量(ADI)人がその農薬を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、現在の科学的知見から判断して健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量」急性参照用量(ARfD)人がその農薬を24時間またはそれより短い時間経口摂取した場合に健康に悪影響を示さないとされる一日当たりの摂取量」の値がそれぞれの物質に設定され決められています。

 

 残留農薬基準が設定されていることにより農薬使用に対する安全性は国に担保されていますが、当園では殺菌剤・殺虫剤を千葉県の散布基準の半分以下に抑え、化学農薬の使用回数を減らす努力を続けています。ある特定の農薬を使用し続けることによりその農薬に対して抵抗性をもった病害虫がでてきてしまいます。そうなった場合、その農薬は効果が低下し、より新しい高価な農薬を使用しなければなりません。現実問題、高価な農薬を何度も使用すれば金銭的負担が大きく圧し掛かってきます。また、農薬の原液を扱う散布作業は農業者自身の身体的負担も大きくなってしまうものです。

 経費削減と環境への負荷を減らすためでありますが、やはり「やりがい」と「こだわり」があることが当園において減農薬を続ける理由です。農薬化学成分を基準の半分以下にするために毎年どういう散布体系にしようか悩みます。この微生物農薬はどうなのか?あの新しい農薬はどうなのか?有効成分はなんなのか?悩みぬいた末に散布体系が決まった時はまるでバラバラになったパズルを完成させたときのようです。さらには平成16年度より毎年取得している「ちばエコ農産物認証」は千葉県内梨栽培において指で数えられるくらいしかいません。この認証を取得し続けることにやはり「こだわり」を持っているのです。

 

ネオニコチノイド系農薬について

 農薬、特にネオニコチノイド系農薬がミツバチに対して大きな影響を与えているのではないかという報道をよく目にします。EUではネオニコチノイド系3種(成分名:イミダクロプリド、チアメトキサム、クロチアニジン)を禁止にしたにも拘わらず、日本は規制を緩和したとか。そんな報道を目にするたび、当園の防除体系にあるネオニコチノイド系農薬は大丈夫なのだろうかと考えました。国が安全を担保しているから問題はありませんが、EUで規制強化されたものを使い続けるメリットはあるものなのか。

 当園において過去10年の間に使用されたことのあるネオニコチノイド系農薬は、殺虫剤・バリアード水和剤(有効成分名:チアクロプリド)、殺虫剤・モスピラン(有効成分名:アセタミプリド)、殺虫剤・ダントツ(有効成分名:クロチアニジン)となっております。2018年の栽培よりEUで使用禁止となったイミダクロプリド、チアメトキサム、クロチアニジンを有効成分としたネオニコチノイド系農薬については当園においても使用しないことにしました。現在、EUで使用が認められているものはアセタミプリド剤だけとなっております。2020年、2021年とネオニコチノイド剤の使用はゼロとなりましたが、2022年は天候不安とカメムシ多発のため、アセタミプリド剤を使用しました。

 

 ネオニコチノイド系農薬以外にも発がん性が確認され、欧米で禁止されているものや規制強化がはじまった農薬があります。殺菌剤・ベンレート(有効成分名:ベノミル)、殺菌剤・トップジンM(有効成分名:チオファネートメチル)、除草剤・ラウンドアップ(有効成分名:グリホサート)です。ベンレートについては2018年をもって使用をやめましたが、トップジンMは剪定時の切り口の癒合剤として永らく使用しておりました。トップジンMについても2021年1月の剪定から有機銅を有効成分とするバッチレートに変更しました。除草剤はちばエコ農産物認証を取得しているため元々使用しておりません。

 

「農薬を減らす努力をしています」「無農薬を目指しています」、そんな文言が書いてあるHPもよく見かけますが、努力するのは当然のことですし、目指すことは誰にでもできます。そんな文言よりも、いつ、どんな農薬を、どのくらいの量を、なぜ使用したのかをお客様に説明できる体制を常にできることが重要だと考えています。


 ちばエコ農産物認証について 


平成14年度に千葉県が、環境にやさしい持続可能な農業の推進と消費者へ安心・安全な農産物を提供することを目的に「ちばエコ農産物」推進事業を始めました。ちばエコ農産物とは化学合成農薬と化学肥料を通常の半分以下に減らして栽培された特別栽培農産物のことです。

 

すぎの梨園では平成16年度に認証を受け、以来毎年認証基準をクリアし続けています。

認証番号 02A0571001

ちばエコ農業情報ステーションで栽培情報が開示されています。